ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています

彼の首に回していた腕を外して、人差し指でポリポリと頬を掻き、「あのさ……」と念のために確認させてもらう。


「私は、よっしーの彼女的な存在なのかな？」


違うのなら大恥をかくことになり、ダッシュで逃げてまた迷子になることだろう。

しかし、さっきの発言を含め、これまでの彼の言動を振り返れば、どうもただの友達と思われていない気がしてならないのだ。


確か、ローストビーフを食べながら飲んでいた先週も、『そのうち親にもきちんと夕羽ちゃんを紹介しようと思ってる』と言われたよね。

私は彼のなんなのか。それをはっきりさせてもらわないことには、私の全てが彼のものだと言われても、なんと返事をしていいのかわからないよ。


返事を待つ数秒間、落ち着かない気持ちで目を泳がせてしまう。

ドラムロールのように鳴り響く、自分の鼓動が耳障りだ。


そんな緊張の中でもらった返事が、「とっくに彼女だけど」というサラリとしたもので、肩透かしを食らった気分にさせられる。

彼の顔を見ればキョトンとしていて、今更なにをと言いたげな顔で、眼鏡をかけ直していた。


戸惑いながら「とっくにって、いつから？」と問えば、「同棲初日から」と淡々と返される。

「俺は恋人でもない女性と、一緒に暮らしたりしないよ」