ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
そんなに前から、彼の中だけで私は彼女になっていたのかと驚いていた。

「それならもっとわかりやすい告白とか、なにかがあるべきでしょ!」とつい声を大きくしたら、不愉快そうに顔をしかめられる。


「夕羽ちゃん、もしかして覚えてないの?」

「なにを?」

「引越しの夜、付き合ってほしいと、俺ははっきり言ったんだけど」


キョトンとするのは、今度は私の番だった。

記憶を遡れば、引越し祝いと称して飲んだくれた自分の姿が、脳裏にモヤモヤと浮かび上がる。


彼との同棲をOKした理由は、日本酒飲み放題だと言われたことだ。

まだ味わったことのない珍しい地酒の瓶がずらりと並んでいて、これは全種類テイスティングしなければと、初日の夜は飲みすぎたんだよね。

彼に絡み酒をしつつ、『もちろんいいよ。どこだって付き合っちゃうよー!』といい気分で答えた自分を思い出した。

あの時の私は、『付き合ってほしい』という彼の申し出を、単なる外出への同行かと思っていて、交際を求められたとは少しも気づいていなかったのだ。


それを説明して、「ごめん、ごめん」と笑ってごまかそうとしたら、彼が急にしゃがみ込んだ。


「どうしたの!? 立ちくらみ?」

「違う。落ち込んでんの……」
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