ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
それで代わりに心の中で、良樹に文句をつけることにする。


君が社内でもニコニコするようになってからというもの、規律が乱れてるよ。

これではいけない。鬼の仮面を被り直して、業務中の私語厳禁に戻しておくれ。


結局、応接ソファに座らされ、栗もなかを食べながら、お茶を飲む羽目になる。

十五分ほどしてやっと解放してもらい、質問に答えるのに疲れた私はおもむろに立ち上がる。

台車を押して、重たい足取りで事業部を出ていけば、ドア前で見送る社員たちからエールが送られた。


「帝の女御様、頑張ってください!」

「派遣のシンデレラのまたのお越しを、事業部一同、首を長くしてお待ちしております!」


おかしなあだ名までつけられて、さらに気力が削られる。


女御様とは、平安時代の最高権力者の奥さんのことだろうか? 私はまだ独身なんですけど。

シンデレラも、私のキャラとは大違い。

意地悪な継母に、お前はひたすら掃除をしてろと命じられても、五木様のコンサートだけは行くだろうし、晩酌もする。

カボチャは馬車にするのではなく、酒のつまみに天ぷらにしたいし、ガラスの靴なんか履いてたら、漁に出られない。


やめておけばいいのに、ついつい口に出さずに反論して、自分で疲労感を増幅させてしまった。

足元に向けて小さくため息をついた後は、気持ちを立て直そうと前を向き、台車を押す手に力を込める。
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