ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
私が注意していることに気づかない彼は、ワクワク顔で、そのいいニュースとやらを話しだす。

今日は昼から外勤で、経済界の重鎮と会食予定だったそうだが、先方の都合で急にキャンセルになり、スケジュールに三時間ほどの空白ができたそうだ。

それで「一緒にランチができるよ!」とのことだった。


きっと良樹は会食のキャンセルの知らせを受けた後、総務部に電話したのだろう。

けれども私は備品の補充に回っていて、連絡がつかなかった。

戻り次第、折り返させると言われても、それを待ちきれずに、私を捜すべく社長室を飛び出したに違いない。


もし彼に尻尾があったなら、ちぎれんばかりに振っていそうな気がする。

私のことが好きすぎて、一緒のランチごときに浮かれる彼が可愛らく、胸がキュンと音を立てた。

各部署の囲み取材で削られた気力は回復し、「うん、わかった」と彼に笑顔を向けた。


「じゃあ、急いで備品の補充に回ってくるよ。今は……十一時だね。一時間後に昼休みに入れるから、社長室で待っててね」


私としては、社食か近辺の食事処でのランチを想像し、昼休み時間の変更も考えていない。

社長の恋人とはいえ、ただの派遣社員。その分はわきまえているつもりでいた。

< 144 / 204 >

この作品をシェア

pagetop