ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています

蕎麦を食べるためだけに、東京と長野をヘリで往復した日から数日が過ぎた日曜日。

私と良樹はダイニングテーブルに向かい合って、遅めの朝ご飯を食べている。

皿には焦げていないハムエッグと、火の通し具合が上等な野菜炒めがのっていて、これらは彼が作った料理だ。

炊きたてのご飯と、自分で作った味噌汁、それと良樹の手料理を順に口に運びつつ、やればできるじゃないかと、彼の成長を実感していた。


生まれながらのお坊ちゃまでも、これくらいの料理は作れないとね。

庶民の私と交際しているのだから。


セレブな生活に私が一方的に合わせるだけだと、対等に付き合っている気がしない。

私の中にある庶民感覚を理解して、休日の朝ご飯くらいは、それに合わせてもらっても、ばちは当たらないだろう。


綺麗に食べ終えた私が「ご馳走さま。美味しかった」と重ねた食器を手に席を立てば、完食までもう少しの彼に「夕羽ちゃん、今日は一日俺に付き合ってね」と声をかけられる。

キッチンへと歩きだしていた足を止め、私は首を傾げて振り返る。


「なにか約束してたっけ? 今日は氷川きよしの新曲発売日だから、CDを買いに行こうと思ってたんだけど」


そう答えたら、「今日は空けておいてと、だいぶ前に言ったじゃないか」と非難された。

けれども、その声も表情も不満げなものではなく、むしろ機嫌がよさそうに感じられる。
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