ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「悪いけど、CDは明日買いにいって。今日は俺の誕生日だから、祝ってもらわないと」


ニッコリと微笑んだ彼に誕生日を告げられ、驚き慌てた私の手の中で食器がぶつかり合った。


「ごめん! 誕生日を今知った。どうしよう、準備しないと。プレゼントは一緒に買いにいこうか。悪いけど、二万円までの物で頼みます。料理は……昨日、鮭一匹が実家から送られてきたから、刺身と鍋でいいかな?」


良樹と付き合うまで何年も恋人がいなかった私なので、誕生日というイベントを失念していた。

とはいえ、世間一般の恋人たちが、お互いの誕生日を祝い合うものだということは、かろうじて知っている。

急ごしらえではあるけれど、私も彼女としてなにかしなければと、精一杯、考えを巡らせていた。


そうだ。ガラにもなく花なんか買って、部屋を飾りつけようか。

大きなクラッカーも購入して、サプライズ的にパンと一発ぶちかますというのはどうだろう。

生歌も披露してあげる。

バースデーソングの演歌といえば、やっぱりアレかな。千昌夫の『還暦祝い唄』。


キッチンの食器洗浄機に、水で軽くすすいだ皿や茶碗を入れながら、頭の中を忙しくさせていたら、「ご馳走さま」と遅れて食べ終えた良樹が、食器を手に私の隣に立った。
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