ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
思い出していたのは、テレビのバラエティ番組で放送していた、とある社長令嬢のホームパーティーの様子だ。

自宅の広いリビングに、同じようにセレブな友人たちが三十人ほど集まって、フレンチのシェフや寿司職人を呼んで料理を作らせていた。

余興にプロのミュージシャンも登場するという、なんとも豪華なホームパーティーで、良樹の誕生会もああいう感じなのかと想像し、それなら私はどうやって祝えばいいのかと困ってしまった。


その問題を率直にぶつければ、彼が腰を落として私と目の高さを合わせ、瞳を艶めかせる。


「夕羽ちゃんは俺のそばにいてくれるだけでいいけど、どうしてもなにかしたいというなら、キスをしてもらおうか」


そんな甘い気遣いを見せられたら、私の頬は熱くなり、鼓動は二割り増しで高鳴る。

少々照れつつ、「そんなんでいいの?」と彼の肩に両手をかけて顔を傾けたら、唇が触れる前に「そうだ、もうひとつあった」と追加注文をされた。


「パーティーでは、俺の恋人としてのスピーチもよろしく」

「え、スピーチ……?」


それが酢漬けの桃でないことは知っているけど、私の中のスピーチとは、卒業式の送辞や答辞、結婚式の祝辞など、型にはまったものだ。

恋人としてのスピーチをしろとは、随分と難しいことを言う。

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