ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
顔の距離五センチで「うーん」と唸れば、「簡単で短いものでいいから」とニコリと優しく微笑まれ、直後に唇を奪われた。

良樹とはもう何度も唇を合わせているというのに、今も新鮮な喜びと甘さを与えられ、芯からとろけそうになる。

ごまかされた気もしなくはないけど、『まぁ、なんとかなるさ』と思わされ、スピーチに対する不安は、綿菓子のようにすぐに溶けてなくなった。


朝食後はのんびりしている暇はなく、良樹に渡された服に着替えをする。

体にピッタリフィットするラベンダー色のドレスは、膝から下のスカート生地がふわりと広がるマーメイドラインになっている。

オフショルダーで、胸元の大胆な開き具合が少々気になるところだが、上にレースのショールを羽織れば気分は落ち着いた。


首に下げるのは、これも彼に与えられたネックレスで、大粒のダイヤが眩しく、耳にもデザインを合わせた金のイヤリングをつけている。


人生で一番華やかな装いをさせられた私は、それから敷居の高そうなヘアサロンに連れていかれ、ショートボブの黒髪をお洒落に女性らしく整えられて、プロの手によってメイクも施された。

鏡に映る華やかな自分を見て、「誰……?」と戸惑っていたら、私をヘアサロンに預けて一度帰宅していた良樹がスーツ姿で戻ってきた。


「なんて素敵なんだ。今日のパーティーでは、夕羽ちゃんが間違いなく一番の美女だ。みんなに早くお披露目したいけど、もったいない気もする。複雑な心境にさせられるよ」


そう言って褒めてくれた彼は、椅子に座っている私に手を差し出す。

それに掴まり立ち上がった私は、『そういう君もめかし込んだね』と、彼の頭から爪先までを見て思っていた。

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