ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
紺と濃紺の太い縦縞のスーツを着て、アスコットタイとポケットチーフは光沢のある水色だ。

職場では決して着ることのないお洒落スーツは、いつもとは異なる彼の魅力を引き出してくれていた。

長身でスタイルのよい美青年だからこそ、このスーツを着こなせるのだろう。

中肉中背で普通の容姿の男性が着れば、縦縞がパジャマにも見えそうで、絶対に真似してはいけない気がした。


私のヘアメイクも当然の如く彼の支払いで、誕生日にお金を使わせて申し訳なく思う。

けれども、私を恋人として友人たちに引き合わせようとしているのだから、高級な装いが必要なのだろうとも思い、甘んじてセレブのふりをすることを心に誓った。

それはもちろん、彼に恥をかかせないためだ。


ヘアサロンを出ると、いつもの黒塗りの高級車ではなく、白いリムジンが路肩に待機していた。

たったふたりなのに、これに乗っていくのか……。

いつもにも増した富豪ぶりに感心し、運転手が開けてくれたドアから乗車しようとしたら、後ろに若い女性の声がした。


「わ、すごいね。なにかのイベントかな?」

「これから結婚式のカップルじゃない? 彼氏、素敵でいいな」


見ず知らずの通行人女性の会話に、『よく見て。ウェディングドレスじゃないよ』と心の中で間違いを指摘する。
< 152 / 204 >

この作品をシェア

pagetop