ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
良樹は彼女たちの言葉にクスリと笑っていて、私の後に乗り込みながら、「結婚式にしては随分と質素だな」と声に出して否定していた。


リムジンの中はテーブルを囲むコの字型のソファがあり、座り心地の抜群なシートに並んで座る。

初めてのリムジンは、車内とは思えない豪華なつくりで、ホテルのロビーにある応接セットをコンパクトにまとめたような内装だ。


「これが質素なんだ……」と半ば呆れる私の気持ちは、彼には理解できないみたい。

軽く頷いてから、「一生に一度のウェディングは、思い出に残るものにしないと」とニコリと微笑んだ。


「ね?」と少年っぽい可愛い笑顔で同意を求められても、そんなに先のことに対しては、返事のしようがない。

今の時点で良樹は私の花嫁姿を思い描いているのかもしれないけど、私たちの関係がこのまま続くのかは未知数だ。


結婚か……。

私にはやはり、現実味のない言葉に聞こえる。

それは私たちの背負っているものに、あまりにも違いがあるせいだろう。


それでも私は、別れを恐れて不安になったりしないよ。

誰にもわからない先のことに怯えて、笑えなくなるのは嫌だ。

だから遠すぎる未来については、考えたくない。

私が気にするのは、せいぜい半年後までのスケジュールで、そして三カ月後には五木様のコンサートがまたあるから、チケットは既に予約済みである。

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