ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
心にしみる演歌と、美味しい日本酒。それと愛し合える恋人がいる今を楽しめばいいじゃない。

そう思い、良樹の問いかけは作り笑顔でスルーする。

「このボタン、なに?」と目の前のテーブルの下にあるスイッチパネルのボタンを乱れ打ちして、話題を変えるために彼を慌てさせてみた。


それから十五分ほどリムジンで走れば、三門家の門にたどり着く。

良樹の金持ちぶりにはすっかり慣れたと思っていたが、それを今、撤回する。


ここが実家なの!?

地価がべらぼうに高い東京二十三区内だというのに、門から家が見えないんですけど……。


石と鉄製の重厚な門がリムジンの前に立ちはだかっていて、これが三門家の正門らしい。

二名の警備員が門の左右に姿勢正しく控えており、開門されると私たちに向けて頭を下げていた。


門の内側に車はゆっくりと進み、車窓を流れる広大な和風庭園に、思わずため息が漏れる。

苔むした庭石に囲まれた大きな池があり、奥には茶室とおぼしき小さな日本家屋が見える。

松や紅葉などの木々が美しく配され、趣深く洗練されて、完全無欠な日本の美がここにあった。


そういえば……と思い出したのは、数日前のヘリコプターに乗せられた時のことだ。

『アレが俺の実家だよ』と良樹が指をさした時、いくら金持ちの家でも民家は点にしか見えないよと思ったが、緑なす広大な庭園は判別できていた。

あまりの広さに、公共的なものであるはずだと思い込んでいたため気づけなかったが、まさか三門家の敷地だったなんて……。

< 154 / 204 >

この作品をシェア

pagetop