ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
スタッフに扮して働いていることを良樹にばらしてから、どうなったかというと、元のドレス姿にすぐに戻されることはなかった。

というより、彼が私に着替えてこいと、指示する暇もなかったのだ。

メイド服を着ている以上、私は招待客から次々と仕事を与えられるし、主役の良樹は私以上に話しかけられて周りを囲まれるから、あれ以降私たちがまともに会話する時間はなかった。

両親への紹介も、恋人としてのスピーチも見送られて、めでたく私の思惑通りとなり、誕生会は終了した。


帰宅は十九時頃で、ふたりでお茶漬けを食べながら、良樹にたっぷりと叱られた。

勝手な振る舞いについては一応謝った私だけど、こちらからも文句をぶつける。

それは『いきなりすぎるでしょ!』という苦情だ。

ああいう場に不慣れな私を、前もっての説明もなく連れていくのはやめてほしい。

ましてや親への紹介やスピーチなんて、私にとっては見上げるほどにハードルが高く、逃げ出したくなって当然である。


やはりというべきか、あの誕生会が年行事の良樹だから、私の戸惑いや困惑を少しも理解していなくて、言われて初めて気づいたような顔をしていた。

大きな肩をシュンと落とし、『ごめん』と謝ってくれたけど、私はまだ心のどこかでヒヤヒヤしている。

彼の突拍子もない大富豪ぶりに、次に巻き込まれるのはいつだろう?と……。

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