ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
そこで私は「ん?」と疑問に思い、緊張感が急に薄らいだ。

一刻を争う事態なのかと思ったが、そうでもないようだ。

なにしろ倒れた本人に、連絡させようとしているくらいなのだから。


「母ちゃん、ちょっと深呼吸して落ち着こうか。父ちゃんはなにをして倒れたの? それで今はどんな状態?」


冷静さを取り戻した私が具体的な状況を聞き出そうとしても、慌てた母の説明はさっぱりわからない。

《アレした時に倒れて、今はこんな状態だよ。痛がってるから、とにかくあんたは今すぐに帰っておいで!》と叫ばれて、電話は一方的に切られてしまった。

ツーツーと電子音しか聞こえなくなった受話器を電話の本体に戻して、腕組みをした私は「うーん」と唸る。


今すぐに帰れと言われても、仕事があるし離島は遠い。

それになんとなく、母がひとりで慌てているだけで、大したことはないような気がする。

取りあえず診療所に行かせて、結果の報告を聞いてから帰省を検討してもいいのではないだろうか。

だいたい、私より弟の方がずっと近くにいるのに、なぜ私を呼ぼうとする。


十歳下の弟はまだ学生で、札幌の専門学校に通っている。

頼り甲斐のある奴ではないけれど、実家までの移動距離も時間も私の半分以下だ。

急を要するならなおのこと、先に弟を呼び出してほしい。

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