ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
目の前には刺身の盛り合わせと、ほっけの塩焼き、ホタテの稚貝の味噌汁などの海の幸が並べられ、久しぶりの母の手料理に舌鼓を打ちながら、「で? 父ちゃんになにがあって、そんなふうに寝てるのさ」と改めて問いかけた。

私の向かいで茶を啜り、煎餅をかじりつつ母が言うには、こんなことがあったようだ。


早朝三時からの漁を終え、獲った魚の水揚げも終わらせて、父はいつものように十時前に自宅に戻ってきた。

そして一杯やるかと、新しい日本酒の一升瓶を床下収納庫から取り出そうとした時に、腰をグキッと痛めたらしい。

つまりは、ぎっくり腰だ。


それを聞いた私は、普段から大漁の重たい網を引き、魚で溢れんばかりのかごを運んでいる父が、なにやってんのさ、と呆れてしまう。

それくらいで大騒ぎして、慌てて私を帰省させた母にも同様の視線を向けた。


父は布団に寝そべり、ニュースの後に始まった演歌番組を楽しみながら、「悪いな。病気ひとつ、怪我ひとつしてこなかった俺だから、母ちゃんを慌てさせちまって」と苦笑いして言い訳をしている。

一方、母は悪びれることなく「大変も大変さ!」と熱く補足する。


「落ちた酒瓶が割れて、そこら中、酒まみれだよ。父ちゃんは『いでー!』と叫んで倒れてるし、あたしゃ、腰の骨でも折れちまったのかと思ったんだよ」
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