ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
それは最近、よく頭の中をちらつく問題ではあるけれど、悩むというほどではない。

『そんな先のこと』という意識で現実味がなく、はっきりと言葉にしてプロポーズされたわけでもないのだから、悩むには早いのだ。

それで「そんなことより」と弟の話題に戻そうとした私だったが、父が「いでで!」と叫びながら傍らの一升瓶を支えに膝立ちし、良樹の話に食いついてきた。


「どんな男だ? 俺を驚かせるくらいのデケェ男なんだろうな。へなちょこ野郎じゃ許さねぇぞ。今度そいつを連れてこい!」


痛みに呻きつつも意気込む父は、「寝てないとしばくよ!」と母に叱られて、布団に横にされている。

私は酒を飲みつつ、どうしたものかと考え中だ。


良樹の両親への紹介から逃げた身としては、私の方からうちの親に会ってほしいとは言い出しにくい。

それに、父は驚くようないい男を期待しているようだけど、良樹を紹介したらびっくりどころの騒ぎじゃないだろう。

なにしろ、天下の帝重工の御曹司だからね。


いや、案外平気かな……。

父なら大企業の名よりも腕っぷしの方を気にしそうで、『俺と相撲で勝負しろ』などと言いだしかねない。

海をバックに恋人と父の相撲対決なんて、なかなかシュールで現代的ではなく、できれば避けたいところだ。

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