ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
それで「今度ね。いつか、機会があれば連れてくるよ」とだけ答えて、ごまかすことにする。

子供の頃のひと夏だけ島に滞在していたお坊っちゃまで、父が船に乗せたこともあるとは教えなかった。


離島に帰ってきてからというもの、なかなか忙しい時間を過ごしている。

翌日の金曜日は、早朝から父の代わりに船を操り海に出る。

十代の若いアルバイトの男の子ふたりと近海の漁場に延縄の網を仕掛け、それが終われば腰を痛める前に父が仕掛けた網を巻き上げて、帰港する。

水揚げした魚を漁協に卸し、その後は網の手入れもして、へとへとになって昼頃に帰宅。

家では、飲んで食べて、幼馴染がやってきてまた飲んでから寝るという一日だった。


そして土曜の今日も同じ調子で時間は過ぎて、漁師の仕事を終えたら十一時半になっていた。

今日の海はしけていたが、荒波に船を出して無事に帰った私はすごい。釣果も上々だ。

鳥羽一郎の『兄弟船』を歌いながら、意気揚々と引き揚げて家に帰れば、まずは冷えた体を湯船で温める。

それから、こたつテーブルで母の手料理を食べつつ父と酒盛りを始めた時に、ふとなにかを忘れている気がして、アワビの刺身に伸ばした箸を止めた。

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