ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
座椅子に座っていられるくらいに腰痛が改善した父が、目を瞬かせている私に「どうした?」と眉を上げて問いかける。


「やり忘れがあるような気がしたんだけど、なんだろう……」


漁に関わることかと思ったが、漁具のひとつ一つを頭の中で点検しても、特に問題はない。

それなら私の本業のことかと東京に思いを馳せて、ハッとした。

そうだ。良樹に実家に帰ることになった経緯を、メールで知らせていない。

忙しさと酒のせいで、すっかり忘れていた。


急いで立ち上がった私は、隣の部屋から数日分の衣類を詰め込んだ旅行用のバッグを持ってくると、しまいっぱなしにしていたスマホを取り出す。

ところが、ホームボタンを押しても画面はグレーのままで作動せず、どうやら充電切れのようだ。

充電機は持ってきているので、居間のコンセントに挿して充電を開始すると、メールは後でもいいかと、こたつに戻った。


良樹は今日の昼過ぎに出張から帰ると言っていたので、私がいないことを知るのは、一、二時間後くらいだろう。

念のため、自宅マンションにメモを残してきてよかった。

『ごめん。急だけど実家に帰る』という簡単なものでも、それで留守にしている理由は伝わるだろうし、心配をかけずにすむはずだから。

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