ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
そう思い、また気分よく父と酒を酌み交わしているうちに、やがて口からは大あくびが。

重労働後の酒は体に深く染み渡り、すぐに眠気がさしてしまう。

こたつに入ったままで、絨毯にゴロンと寝そべれば、父が珍しく「ありがとな」と優しい声で私にお礼を言った。


「いいよ。娘だもん。当然だよ……」


そう言った後は、良樹を想いながら、夢の中に意識が吸い込まれていく。

明日、漁を終えたらすぐにここを発って、東京に帰ろうか。

私がいないと良樹に寂しい思いをさせてしまう。

それに私も、そろそろ会いたくなってきたから……。


それから数時間が経ち、昼寝から目覚めたら、居間には夕暮れの光が差し込んでいた。

時刻は十六時十五分。

寝ぼけた目をこすって身を起こし、辺りを見渡せば、灯油ストーブの上のやかんが湯気を立ち上らせているだけで、テレビもつけられておらず、父の姿もない。

暖簾の向こうの台所からは、包丁がトントンとリズムを刻む音がする。

台所に顔を出し、夕食の下拵えを始めている母に「父ちゃんは?」と問えば、漁協の誰だかに呼ばれて港に出かけていったと教えられた。

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