ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
振り向けば母が、なぜか流し台の横の、勝手口を指差していた。


「じゃんじゃん鳴ってるのに、あんたは起きないし、あんまり煩いから漬けちゃったよ」


淡々とした口調の説明に、「漬けるって……どういうこと?」と首を傾げれば、「大根の味噌漬けの樽に放り込んだ」と言われて、目を剥いた。


「なんで!?」

「音が出ないようにしようと手に取ったんだけど、そしたらブルブル震えて気味が悪いったらありゃしない。あんな近代兵器、あたしには恐ろしくて扱えないよ。それで慌てて、つい樽の中に……」


母はバイブレーション機能もない古い携帯電話を長年使い続けていて、スマホに触れたことがなかったようだ。

慌てん坊ぶりをおかしな方へ炸裂させた母に、「勘弁してよ!」と叫んだ私は血相を変えて、勝手口からドアの外へと飛び出した。

そこはすぐに屋外ではなく、トタン板の簡単な屋根と囲いがされていて、半屋内といった光景である。

漬物樽や魚の保存用の業務用冷凍庫が置いてあり、床はコンクリート敷きになっている。

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