ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
急いで樽の蓋を開けて中を確かめれば、ジップロックの野菜保存用ビニール袋に入れられた私のスマホが、味噌に漬かった大根の上にのせられていた。


あ、味噌が染みないようにしてくれている。

慌てていた割に、そこはちゃんと考えてくれたんだ……。


胸を撫で下ろして、スマホを樽の中から救出した私は、「夕ご飯まで散歩してくる」と母に言い置いて、玄関から外に出た。

着ている服は薄手のスウェットだけど、スポーツメーカーのダウン入りベンチコートを羽織っているので寒くない。

家から百五十メートルほど先の、港の方へと歩いていけば、夕焼け空に海までが茜色に染められて、それが地平線まで続く様が美しく目に映った。

後ろを振り向けば、紅葉に色づく山があり、秋の離島の夕暮れは鮮やかだ。

なにもない小さな島だけど、景色だけは一級品だよね……。


港は足場がコンクリートとアスファルトで固められているので歩きやすく、漁協の倉庫のような建物は海に向かって右奥にある。

漁船が数十隻停泊している波止場を、左へと向きを変え、海沿いを歩いていた。

この時間は漁をしている船はないため、辺りに人影はなく、波音とカモメの声しか聞こえない。

朝はしけていたが、今はだいぶ凪いでいて、明日の早朝の漁までは、この調子で穏やかな海であってほしいと願っていた。

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