ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
反省してくれたようだから、きっと呼び出されるのは今日でお終いだろう。

わかってくれたなら、それ以上文句を言う必要はない。

仕事に戻った様子の彼を見て、私も庶務の仕事に取り掛かる。

真上には電球の取り外されたダウンライトの穴があり、脚立に上って真新しい電球をソケットにねじ込んでいると、静かに仕事をしていた彼が、ボソボソとなにかを呟いていた。


「夕羽ちゃんに会いたい。話したい。毎日顔が見たい。この気持ちは、どうすればいいのか……」


脚立の上から首を捻って彼を見ても、視線は合わない。

独り言だったのかもしれないが、寂しそうな彼に慰めのつもりで返事をする。


「その気持ちは嬉しいよ。私もこうして、よっしーと話ができるのは楽しいと思ってる」


それでも、これからも呼んでくれて構わないとは言ってあげられず、「でもねーー」と我慢を促そうとしたら、「そうだ!」というなにかを閃いたような大声に遮られてしまった。

同時に机を思い切り両手で叩いて音を立てるから、「わっ!」と肩をビクつかせて驚いた私は、脚立のてっぺんでバランスを崩しかける。

「おっとっと」と前後に揺れた体は、こらえることができずに後ろへと傾いて、背中から落ちようとしていた。

危険な落ち方に慌てても、どうすることもできない。

衝撃を覚悟して目を瞑った私だが、床に打ち付けられることはなく、逞しいスーツの腕と胸に抱きとめられていた。

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