ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「あ、ありがとう……」

助けてくれたのはもちろん、よっしーで、横抱きにされた状況で冷や汗を拭う私に、彼は嬉しそうに提案した。


「いいこと思いついた! こうして呼び出さなくても毎日会える方法」

「どんな?」

「夕羽ちゃんが俺の家に引っ越してくればいいんだよ」


意表を突かれたアイディアに、私は口をポカンと開けて考え中。

それはつまり、私が彼の自宅で寝起きするということで、ルームシェアというやつではないだろうか。

いやいや、それは無理だよ。

お金持ちの彼の家はすごそうだ。家賃負担を求められても払えないし、ハイクラスのイケメンに成長した今の彼なら、彼女の一人や二人、いるのでは?

一応女の私が同居しているのはまずいでしょう。

そう思って「せっかくだけどーー」と断ろうとしたら、興奮気味の彼にまたしても言葉を遮られる。



「善は急げだ。今日から同棲しよう。夕羽ちゃんとの二人暮らしが始まるなんて、考えただけでワクワクするよ!」

「ちょっと待て。今なんて言った? 同棲って……えっ!?」


私が思う同棲とは、交際している男女が夫婦のように、ひとつ屋根の下で暮らすことなのだが、彼の解釈がそれと同じかどうかはわからない。

横抱きにされたまま、どうしたものかと戸惑う私と、嬉々として引っ越しについて相談してくる彼。


「夕羽ちゃんの家の荷物、どれくらい? 十トントラックの手配で足りるかな。津出にスケジュール調整させて、今日は早く帰らないと。面会予定のランスタッド社の高藤さん、まだ来てないよな。キャンセルできないか……」



確かその人ならもう到着していて、津出さんが早すぎると慌てていたような……。

脚立から落ちた時とは違う意味合いの冷や汗がこめかみを伝う。

同棲する気はないのだけど……と言い出しにくい雰囲気であった。
< 29 / 204 >

この作品をシェア

pagetop