ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
ホテルにあるような都会的でお洒落な洗面所で手洗いうがいをすませ、広さ八畳の洋室に入る。

するとそこは、私が引っ越す前に住んでいた、1Kのボロアパートのよう。

古めかしい絨毯を敷き、こたつに小さなテレビ、古いタンス、通販で三千円で購入した折りたたみ式ベットなどを詰め込んである。

この部屋は一階にあるものよりは小さめのダイニングキッチンだったのだが、私の私物たちのせいで、元のハイセンスな高級感が見事に損なわれていた。


やっぱり、落ち着くわ。この方が自分の家という感じで、くつろげる。


二階の全部屋を使っていいとのことだが、ひと部屋で充分に足りていた。

引っ越し初日のよっしーは、カルチャーショック受けたような顔をして驚き、『遠慮しないで』と何度も言ってきたけど、庶民の私にはこれがちょうどいいのだ。


帰宅から三時間ほどが経過して、時刻は二十一時四十分になった。

空になったカツ丼の容器はごみ箱の中にある。

シャワーも浴びてパジャマ姿の私は、火の入っていないこたつテーブルに頬杖をついて、ほろ酔いのいい気分になっていた。


よっしーはまだ帰宅していない。

いつもは二十一時頃に帰るけど、今日は取引先の接待を受けなければならないと言っていた。

彼も今頃はどこかで一杯やっていることだろう。

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