ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
一緒に暮らしていても帰宅時間が全然違うので、ふたりで夕食を取ることができたのは、引越し初日と日曜の二回しかない。

社長の彼は多忙な様子。

電球交換に毎日呼び出されていたあの時も、私に会うためにきっと無理をして時間を作っていたのだろう。

そう思えば、彼の迷惑行為に、なぜか申し訳ない気持ちになってくる。


今日は何時に帰るのか……。

昭和レトロな壁掛けの振り子時計をチラリと見て彼を想ったが、視線をすぐに正面に戻した。


テレビは敬愛する五木様のDVDを再生中で、心に染みる名曲の数々を、ラメ入りの真っ赤なジャケットを着た彼が、目を細めて聞かせてくれていた。

日本酒を湯飲み茶碗でちびりちびりと口にしながら、缶詰のサンマの蒲焼をつまむ。

このひと時に幸せを感じる。

三カ月後の五木様のディナーショーのチケットも取れたし、地元から遠く離れた都会暮らしを、私はしっかりと楽しんでいた。


時計の針が二十二時を指した時、突然ノックもなしにドアが勢いよく開けられて、「夕羽ちゃん、ただいまー!」とよっしーが元気に飛び込んできた。

ちょうど日本酒を口に含んだところだったので、気管に入ってむせていると、スーツ姿のままの彼がこたつの私の横に無理やり入り、体をぴったりと寄せてきた。

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