ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
手酌した日本酒をひと口飲んでから、至って普通の過去の恋愛について淡々と打ち明ける。


私の生まれ育った離島には、中学校までしかないので、子供の多くは島を出て、北海道の都市部で下宿しながら高校に通う。

狭い人間関係から抜け出して、広い世界で親の目が届かない生活が始まると、人間、どうしてもはっちゃけたくなるものだ。

恋愛においても急に興味が膨らんで、私もクラスメイトの男子と交際を始めた。

一年近くは仲良くしていたのだが、ある日突然『もう少し女らしくできない?』と言われて、『ごめん、できない』と答えたら、別れ話となったのだ。


私の交際相手は、その彼ひとりだけ。

なんとも寂しい戦歴で、その内容も特筆すべきことのない平凡なもの。

なんの感情も込めずに話し終え、残っていたサンマの最後のひと切れを口にして、また日本酒をちびりと飲む。

つまらない話をしてしまったと思いながら、テレビの中の五木様に意識を戻そうとしたのだが、隣から静かな怒りに満ちた低い声がした。


「そいつの名前、教えて。地獄に送ってやる……」


拳をドンとテーブルに叩きつけ、湯飲み茶碗半分ほどの日本酒を一気に飲んだ彼は、鬼の社長と呼ばれている時の顔付きになっている。

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