ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「酔ってる……よね?」

「酔ってる。夕羽の魅力に。今夜はもっと酔いたいな……今飲んだその酒を、俺にも味わわせて」


君の湯飲みにも同じ酒が入っているよ、とは言わせてもらえなかった。

大きな右手が、私の後ろ髪を掴むように後頭部に回されて、左手は顎先に、顔を彼の方に向けさせられる。

目を丸くする私の唇に、薄く開いた色気のある唇が押し当てられ、柔らかな舌先が強引に私の中に潜り込んだ。


まずい。これは、気持ちいい……。

滑らかに、なまめかしく絡み合う舌の快感に、久しく眠っていた異性を求める女の情欲が目覚めそうになる。

そうはさせまいと争う私は、この情熱的なキスを冷静に分析し始めた。


キス経験が人並み以下の私でも、うまいとわかるほどに卓越している。

ひょっとして、よっしーは、キス慣れしてる?


同居を始める前に、私を住まわせて彼女が妬かないかと心配したら、『交際相手はいない』と言われた。

しかし、今は一時的な空白期間であって、過去の女性経験は豊富だと推測できる。

今の彼は男盛りのハイクラスのイケメンだ。自分からアクションを起こさなくても、綺麗な女性が群がってきそうな気がする。


ふと秘書の津出さんの顔が浮かんだ。

もしかしたら彼女もよっしーに好意を抱いているのでは……。私が電球交換に通っていた時には、随分と睨まれたし。

そうだとしたら、申し訳ない。

今、彼にキスされている女が、こんな私で。

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