ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
あまりの心地よさに長く濃厚なキスを受け入れてしまったけど、そろそろやめさせなければと思っていた。

私たちは恋人ではなく、友達なのだから。


見た目にそれほど表れていなくても、彼はかなり酔っているに違いない。

それでうっかり、私に手を出しかけているといった状況だろう。

勘違いをして浮かれるほど、私は子供じゃないのだ。


唇をずらして「よっしー、苦しいよ」と文句を言えば、キスを終わりにしてくれたけど、私に抱きつくように回した両腕は外れない。

そのままズズズと崩れ落ちた彼は、私の膝を枕に、腰にしがみつくような姿勢で眠そうな声を出す。


「なかなか時間を取れなくてごめんね。次の土曜の昼は空いてるから、懐石料理を食べにいこう。日曜は二十時まで待ってくれたら外食できる。三つ星のフレンチレストランに連れていきたい。一緒に美味しいものを食べよう……」


あ、寝ちゃった。疲れているんだね。

社長の仕事についてはよくわからないけど、私の何十倍も忙しくて大変なのだろう。

それなのに、なるべく私との時間を作らないとと、気を使っているのかな。

無理しなくていいのに。私は缶詰と日本酒と演歌だけでも充分に楽しめる、安上がりな女なのだから……。


スースーと寝息を立てている彼の髪をそっと撫でると、柔らかく細い毛先が手のひらを優しくくすぐる。

テレビ画面では五木様が、心を揺さぶるような素敵な声で、『恋歌酒場』を歌っていた。


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