ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
よっしーとのふたり暮らしも、二カ月ほどが経過した七月下旬。
会社での私たちは、社長と、ただの派遣社員という立場を守り続けている。
というより、電球交換に呼ばれなくなれば、接点はないに等しい。
この二カ月では、二度ほど廊下ですれ違うことがあったくらいで、頭を下げた私に彼は、鬼の仮面を外さぬ程度にほんの少しだけ微笑んでくれた。
秘書の津出さんにも文句を言われなくなったし、隣の席の小山さんにも、社長とどういう関係かと問われなくなった。
怪しい関係に思えたのは、気のせいだったということで、片付けられたのだろう。
今日も朝から、平和で退屈なデスクワークを三時間ほど続けていて、昼休みはまだかと、腕時計の針を気にしてしまう。
すると小山さんが、各部署の有休申請書を纏めて閉じたファイルを手に、私に椅子を寄せる。
「ねぇ、浜野さん」
有休関係は私の仕事ではなく、首を傾げながら「へい」と返事をすれば、癒し系の可愛らしい顔に似合わない、ニヤついた笑みを向けられた。
「その腕時計、あのブランドの最新モデル? 浜野さんって自慢しない人だから気づきにくいけど、最近お洒落になったよね。お金持ちの彼氏ができたんでしょ? そのバッグも素敵ね。いいなぁ」
雑談禁止の規則を破ってまで、小声で話しかけてきた彼女は、ソワソワして聞かずにはいられないという顔に見える。