ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
子供の頃はそこまで強く意識しなかったが、大人になれば金銭感覚や物の価値観などに、大きな隔たりを感じる。

それでも不思議とよっしーと過ごす時間は心地よくて、夫婦漫才のように彼の言動にツッコミを入れつつ、同居生活を楽しんでいた。


小山さんが「あ、そのパンプスも、あのブランドの……」と生き生きした目でまだ持ち物チェックを続けるので、逃げ出したくなっていたら、総務部の四十代男性係長が、私たちに歩み寄った。

雑談に気づかれたかとヒヤリとしたが、そうではなく、「浜野さん、開発会議が終わったと連絡が入ったんだ。二階の会議室Bの片付けを頼みます」と仕事を与えられた。


これ幸いと私は席を立つ。

時刻は十一時五十五分。十二時からのお昼休みと被ってしまい、限定百食の日替わり定食にありつけないのは残念だけど、今は持ち物チェックから解放される方がありがたく思えた。


総務部を出て階段で一階分を下り、会議室Bとプレートに書かれたドアを開ける。

ここは中規模の会議室で、白とグレーで纏められた飾り気のない空間だ。

窓際に置かれている観葉植物の鉢植えだけが、唯一彩りを添えてくれている。

正面にはホワイトボードと、プロジェクターやスクリーンが置かれたままで、椅子二脚を備えた長机が横に二列、縦に十一列に並んでいた。
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