ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
楽しんでもらえたなら、話してよかった。

無駄パイに存在理由を与えられた気がして、私は嬉しくなる。

そうやって普段は業務以外の会話を交わさない男性社員と、ほのぼのとした交流を楽しんでいたのだが……。

その時突然、背後にドアが開けられた音がして、「おい」と低く鋭い声がかけられた。


同時に振り向いた私たちは、目を丸くする。

会議室に入り、ドアを閉めてツカツカと歩み寄る男性はよっしー……いや、鬼の社長だったのだ。


明らかに不機嫌そうに眉間に深い皺を刻み、眼鏡の奥の瞳は怒りに満ちている。

彼は一体、なにについて怒っているのか。

昼休みの時間に入っても、こうして仕事を優先させる私たちは真面目な社員でしょう。

今は片付けの手を止めて雑談していたけれど、昼休みなのだから叱責される謂れはない。


私はそう思っていたのだが、山田さんは青ざめ、私たちの横に立った社長に、「申し訳ございません」と謝った。

「それは、なにについての謝罪だ?」と社長は冷たい声色で問う。


「ええと、それは、会議室内で私語を……」


腕組みに鋭い視線。威圧感たっぷりの社長に、山田さんの返事は震えている。

私は座ったままで、どうするべきかと思案中。

ここでよっしーに『おいおい、そんなに怒らないでよ』と言うのはたやすいが、そうすれば私たちの友人関係に気づかれることだろう。

しかし黙ったままでは、山田さんに申し訳ない。

私の仕事を手伝ってくれて、肩揉みまでしてくれるいい人を見捨てては、女がすたるというものだ。

< 49 / 204 >

この作品をシェア

pagetop