ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「山田はもう行っていいぞ。浜野は残って」と社長が指示すると、後ろに戸惑うような声がする。


「え、あの、僕だけというのは……」

心配してくれているような山田さんに、顔だけ振り向いて、私からも退室を促した。


「大丈夫。私も社長と話しがあるので、どうぞお気遣いなく」

「ええと……あれ?」


山田さんは目を瞬かせてから、私と社長との間に視線を往復させている。

なにかを気づきかけているのかもしれないが、「早く出ていけ」と脅すような声で社長に命じられ、彼は一礼すると慌てて会議室から飛び出していった。


パタンとドアが閉まった途端によっしーは、夏らしいライトグレーのスーツの胸に、私を抱きしめる。

「夕羽ちゃんを取られるかと思って焦ったよ」とすっかり鬼の仮面を外して、家にいる時のような甘えた口調で話す。


「本当にセクハラされてない?」

「されてないよ。山田さんにはね。よっしーには今まさに、されてるけど」

「そうか。よかった。俺以外の男と親しくしたら許さないからね。肩揉みも俺がする。肩凝ったら、社長室までおいで」


どうしよう。ツッコミどころが満載で、どこから指摘していいのかわからない。

それで大部分のボケはスルーすることにして、スーツの胸を軽く押して抱擁を解くと、まだ少し不満げな顔の彼を見ながら、ひとつだけ反論した。

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