ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「一泊旅行でなにされた? こんなふうに揉まれた? 夕羽ちゃんは誰にでもおっぱい出しちゃう女なの? 頼むから、もっくんと会うのをやめてくれ!」


言っておくが、元彼と別れて十一年、私は誰の前でも胸をあらわにしたことはない。変な言い方はやめてほしい。


焦りか興奮か、彼は制服のベストのボタンが弾けそうなこの胸を鷲掴みにして、揉みまくっている。

社長にあるまじき行為を社内でする彼を、私はカッと目を見開いて叱りつけた。


「君と違って、もっくんはスケベなことをしない。既婚者だし年齢は七十一。祖父と孫ほども年が離れているもっくんは、純粋に演歌を愛する、人のいいおじいちゃんだよ!」


大抵のことは『おいおい』と聞き流す私が本気で怒ったためか、彼は胸から手を離して「ごめん……」と意気消沈した。


あ……。そんな捨て犬のような目で見られると、困ってしまう。

冷静に考えればよっしーは、私が変な男に引っかからないようにと、心配してくれたのだ。

友達としての優しさを怒りで返し、傷つけてしまったのではないかと、後悔が押し寄せていた。


「私の方こそ、ごめん……」と謝った時、ドアが開く音がして、新たな人物がまたひとり、会議室に現れた。
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