ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「なぜ私にまで隠すのですか。もっと早くお教えくだされば、スケジュールの組み方も妻帯者向けのものに変えましたのに。知らなかったとはいえ、おふたりで過ごす時間を考慮しなかったのは、私の落ち度です。社内での密会という褒められない行為をさせてしまったことにも責任を感じてしまいます」


頭に流れていた『北の宿から』は、三番の歌詞までたどり着かずに止まってしまった。

もしかして、彼女がよっしーに恋をしていると思ったのは、私の勘違いだろうか……?

嫉妬や失恋の悲しみをあらわにするのではなく、仕事上の問題しか提起しない彼女に、そんな疑問が湧いていた。


それで「あの、ちょっといいですか?」と口を挟んで、「津出さんは社長に恋しているわけじゃないのかな?」と単刀直入に確認してみる。

すると大きな瞳を見開いて驚いた様子の彼女は、すぐさま勢いよく否定してきた。


「なにをおかしなことを言ってるんですか! 私は職場に恋愛を持ち込んだりしません。あなたと一緒にしないでください!」


気圧されながらも「私も持ち込んでないけど……」とボソボソと反論してみたが、彼女の耳には届いていないようだ。

上司である社長を恋愛対象にはしないと、険しい顔でキッパリと言いきった彼女は、それから急に頬を染めて目を泳がせ、モジモジしながら打ち明ける。


「私には大輔さんという、結婚前提にお付き合いしている彼がちゃんといるので……」


「やだもう、恥ずかしいこと言わせないでください!」と、澄まし顔を取り戻して私を叱った彼女は、まだ耳までリンゴのように赤く色づいている。
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