ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
テイクアウト用の発泡容器だが、重箱風のデザインで高級感があり、【特選京懐石御前】と筆文字で書かれている。

彼が持ち帰る夕食は、秘書である津出さんが手配してくれて、会社に届けられるらしい。

その値段を尋ねたことはないけれど、庶民にとっては特別な日にしか食べられない額であることは、容器の見た目から推測できた。

そんなセレブ弁当よりも、彼は私の手料理を喜んでくれる。


私たちの帰宅時間は大幅に違い、彼は取引先との会食や出張も多いため、基本的に平日の食事は別々に取っているが、これまで三回ほど一緒に食べる機会があった。

その時、私が作ったカレーライスや肉野菜炒めなどの簡単で庶民的な料理を、彼は笑顔で完食してくれたのだ。

『夕羽ちゃんの作ったものなら、泥団子だって美味しく食べられると思うよ』という、本当はまずいと思っているのではないかと疑いたくなる感想ではあったけれど……。


今も彼は私と隣り合って座りながら、セレブ弁当よりも先に、私の平凡な五目炒飯から口にしてくれている。

「美味しいよ。すごく香ばしい」と言ってくれる彼に、「ああ、少し焦がしちゃったからね」と苦笑いしつつ、『さて』と心に思う。

今夜は真面目に話したいことがある。それを切り出さなくては。

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