ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「よっしー、食べながら聞いて。今日、津出さんに私たちの関係がばれたじゃない? それで思ったんだけどーー」


社内では、鬼の仮面を被っている彼。

その理由は、二十九歳の若い彼が社長として自分より年上の社員たちを引っ張っていくためで、威厳が必要なのだということだ。

簡単に言えば、舐められては困るといった心境なのだろう。

けれどもそれは彼本来の姿ではなく、無理をしているのだから、心には相応の負担がかかっているはずだ。


家の中で私と顔を合わせれば、朗らかに笑ってくれる彼だけど、疲れているのは知っている。

私の部屋に来て、ふたりで晩酌しているうちに、膝枕で寝落ちしてしまうことが数回あった。

社長としての業務量を減らすことは簡単ではないのかもしれないが、思いきって鬼の仮面を外してしまえばいいのに。

そうすれば余計な心労を負わずにすむのではないかと、考えた。

つまり私は、彼が潰れてしまわないかと心配しているのだ。


「津出さんは鬼ではないよっしーの顔を見ても、侮ったりせず、真剣に考えてくれたよ。スケジュールを調整すると言ってくれて、現に今日は少し帰宅が早かった」


壁際に置かれている大型テレビも最新型のオーディオも電源を入れていない。

私の声だけが響く静かな空間で、彼は相槌も打たずに真顔で黙々と炒飯を食べ続け、私は彼の表情を注意深く観察しながら言葉を続ける。
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