ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
「大っぴらに私と同居中だと言わなくてもいいけどさ、友人だとくらい言ってもよくない? 怖くないよっしーの顔を、他の社員にも知ってもらいたいよ」


彼を少しでも楽にしてあげたい。

そう思っての発言に、彼のスプーンが止まった。

私の言葉に怒ったのではなく、考えているような表情で中華皿の模様を見つめている。


彼が築いてきたもの、背負っているものを、私は理解しているとは言えず、末端の派遣社員ごときが社長のやり方に注文をつけていいものかと、リビングに入る直前まで悩んでいた。

失礼な助言かもしれない。

それはわかっていながらも、ひとりの友人としての心配であるなら、許されると思いたかった。


私の発言について静かに思案しているような彼に、もうひと押しさせてもらう。


「よっしーのやり方を否定するわけじゃないよ。でも、もう少し柔らかい態度を取った方が、君も下々の私たちも、心を楽にして働けると思うんだよね」


「どうかな?」と問いかけて、返答を待つ。

彼は休めていたスプーンを動かして、掻き込むように炒飯を食べてしまうと、ペットボトルのミネラルウォーターを三分の一ほど一気に飲んだ。

それから今度はセレブ弁当の蓋を開ける。


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