天使は金の瞳で毒を盛る
その時、片腕を強くつかまれて引っ張りあげられようとした。痛い、離して!

「ちょっと、あんた!」

その声とほぼ同時に何か別の声がした。腕が自由になる。鈍い音がした。

「イッ、なんだお前!」

また、鈍い音。それとは別に私に話しかける声。

「大丈夫?お嬢。なんか盛られたね。でももう大丈夫だからね。」

ありがとうと言いたくて、声が全く出ない。

私は頑張って目を開けようとした。あ、なんか、見える。目、あけ。

ぼんやりした視界に女の人の心配そうな顔が見えた。ああ、この人、誰だったっけ…。

その向こうに誰かいる。だれ?もっと向こうに別の人が座り込んでいた。

「っ、だれだ、おまえ」

吐き出すような苦しそうな声がした。

だれ?

黒い大きな塊のような人だった。あ、違う、黒いパンツと黒いパーカー?その先の手が白い。

あれ、ごっつい指輪だあ、いっぱいだあ、可愛い…。

おかしくなって笑い声が出た。

「ちょっと、お嬢、大丈夫?」

黒い人がこちらを振り返った。と、その人が揺れた。

誰かがなぐりかかっていた。息が止まる気がした。

フードが外れた。白い顔。それから金色の髪。

「っつ、なんでっあんたがっ」

視界がまた閉じてきた。でも、もう、きっと…。

ゴンっと鈍い音がした。壁にぶつかった?まだ、音がする。

「もうやめなよ、それ以上やると内臓いくよ、その男」

「…だから?」

「あたしに凄まないでよ、マジに怖いんだから。それよりこのお嬢さんを介抱する方が先じゃないの?」

大股の足音が近づいてきた。すぐそばに気配がある。舌打ちする音と、つぶやき声が聞こえた。

「最低な泣き顔しやがって」

…私?泣いてた?

そっと、頰に触れる手があった。
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