彩―IRODORI―
コウキは戸惑っていた。
言葉が出ないほど、あたしのこと、何も考えてなかったの?
あたしは、ますます悲しくなった。

かちかちと、時計の音が聞こえる。

「アヤのこと、大切にしたいから。歯止めが、利かなくなるから、オレ、これ以上は…」

コウキがもじもじと、言葉を詰まらせながら言う。
それは、やっぱりあたしが昔から知ってるコウキだった。
もう背丈も体格も、あたしよりずっと大きくて頑丈だけど、こんなコウキは一休さんって呼ばれてたころのコウキと変わらない。

あたしは、急に恥ずかしくなった。
さっきの言葉と、さっきの迫り方に。
それと、コウキを信じてなかったことに。

コウキは、やっぱりあたしの最高の彼氏だ。
進展がないからって、何が関係あるんだろう。

「ごめん」

あたしは素直な気持ちで謝った。

「アヤ、こっちこそごめん。不安にさせてたのは、オレなんだし」

溜まっていた涙が溢れ出す。
あたしの涙が頬を伝うと、コウキが立ち上がってあたしの体を抱きしめた。

「アヤ、一緒の高校行こうな」

あたしは何度も頷いた。
前はあたしの方がコウキを慰めてたのに、今はコウキに慰められてる。

単純なもので、あたしはもうすっかり勉強する気になっていた。
コウキと、同じ高校に行くために。
ひととおりコウキに甘えた後、あたしたちはまた勉強に取り掛かった。
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