契約結婚はつたない恋の約束⁉︎

「あの人……こんな夜でもサングラスしはるんやなぁ……芸能人やからかなぁ……」

今日子を追うようにして池原も出て行ったあと、栞は俯きがちにローテーブルの上のカップを片付けていた。

その声が……なんだか鼻声に聞こえる。

「栞……どうした?」

神宮寺が確かめるために顔を覗き込もうとすると、栞がカップを乗せたトレイを持って、くるりと背を向けた。

「あの……たっくん……」

背を向けたまま、栞は続けた。

「し……しのぶさんは……無理…やから……」

「……はぁ?」

神宮寺は、栞の背が(かす)かに震えているのに気づいた。

「しのぶさんは……佐久間先生のことが……大好きで……佐久間先生も……しのぶさんのことが……大好きやと……思うんです」

「……栞、なに言ってんだ?」

震える栞の背中に、手をかけようとしたそのとき、いきなり栞が振り向いた。


「せやから……いつまでも、しのぶさんのこと待ってても……たっくんが、おじいちゃんになるだけやからっ!」

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