契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
……栞?
突然名前を呼び捨てされた栞は、びっくりして目をぱちくりさせた。
……確か、つい先刻まで、あたしのこと『あんた』って呼んではりませんでしたか?
「結婚して『夫婦』になるんだから『妻』のことを呼び捨てにしてなにが悪い?」
神宮寺はふふん、と不敵に笑った。
……なんか、ムカつくんやけれども。
栞は上目遣いで、じろっと見上げた。
「そもそも……『結婚』ってこんなに簡単に決めてええもんなんですか?先生のご実家は、なんて言うたはるんですか?ご挨拶とか行かなくてもええんですか?」
ちょっと、イヤミっぽく尋ねてみた。
「あぁ……うちは兄貴が大学卒業してすぐに学生時代からつき合ってた彼女とデキ婚したからな。
一応、両親には、
『アシスタントの女と入籍するが、デキ婚ではない。それから、マスコミには絶対に言うな』
って、LINEで言っといた。
そしたら、結納とか結婚式とかのことを聞いてきたから『しない』って返しといた」
だが、神宮寺からはこともなげに返された。
……えっ⁉︎ 『契約結婚』とはいえ、両親にはLINEで報告?
栞が思わず顔を顰めると、神宮寺は女親の方は男親のようにあっさりとはいかないのか、と取ったらしく、
「もしかして……そっちは『挨拶に来い』とか言われてるのか?」
と、ちょっとあわてた声で訊いてきた。
「あ、いえ……うちの父親と姉には、まだなにも言っていないので」
栞がそう答えると、神宮寺はいつもの不機嫌な形相になった。
「なんだよ?そっちは報告すらしてねえじゃん!
あんた……本っ気で、おれのことに興味ないのな?」
また『あんた』に逆戻りである。なぜかちょっぴり、栞の胸がぎりっとした。
「……だって、先生のことをどこまで話していいかわからへんかったし、もともと先生のアシスタントをお引き受けするときにも、先生のお名前はだれにも言わへん約束やったやないですかぁ。
それに、いずれ解消することが決定事項の『契約結婚』やから、別にわざわざ言わんくてもええかな?とも思って……」
栞にだって「言い分」があるのだ。