契約結婚はつたない恋の約束⁉︎
「ふうん……まぁ、言わないで済むものなら、そうしてもらった方がありがたいけどな」
……やっぱし、そうなんや。
「だけど、これからはおれのこと『先生』って呼ぶのはやめろよ」
……はい?
「二十歳そこそこのおれみたいなのを『先生、先生』って呼ぶヤツは信用できねぇからさ。特に、池原みたいなヤツな。あいつ、絶対に心の中じゃおれのこと『先生』なんて思ってないぜ」
神宮寺は吐き捨てるように言った。
「でも……しのぶさんも『先生』って呼んでらっしゃいますよね?」
しのぶは神宮寺よりも十歳上で、池原よりもさらに歳上だった。
「……神崎が結婚する前までは違ったさ」
「へぇ、そうなんや……なんて呼ばれてはったんですか?」
そのとき、厳しかった神宮寺の顔がふっ、と緩んではにかんだように見えた。
「……『拓真くん』……だったかな」
栞は記憶の底に微かに残る、神宮寺が日本ファンタジー大賞新人賞を受賞したときに行われたインタビューの、まだ初々しい高校生だった頃の彼をそこに見た。
「じゃあ、先生、あたしがしのぶさんの代わりに『拓真くん』って、呼んだげましょうか?」
「……はぁ?」
だが、言ってはみたものの、それはなんだか烏滸がましい気がした。唖然とする神宮寺を尻目に、そのとき栞は閃いた。