獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
「どの方向に去って行ったか、見たか?」


「あっちだよ。城に連行すると言っていたからな」


初老の男は、シルビエ広場の方向を指さす。町の人々はアメリが城に連行されたと思い込んでいるが、実際はそうではない。シルビエ広場から城の方向には曲がらず、リエーヌの郊外に抜けたのだろう。


リエーヌの街を出れば、緑豊かな自然が広がっている。広野の脇には森が生い茂り、ロイセン王国が衰退する前までは貴族の別荘で賑わっていた。


(偽物の素性が分からなければ、探しようがない。そもそもその偽物は、どうして俺のフリをして悪行を重ねていた? 何が目的だ)


カイルは馬上で苛立ちながら思案に暮れた。


「ところで、フィリックス様はどうしてお城の騎士を従えているの?」


「昨夜も王族専用の剣を持っていたって鍛冶屋が言っていたし、彼は何者なんだ?」


フィリックスが来たことで次第に辺りには人が集まってきたが、いつもとは違う彼の様子に皆が戸惑いはじめる。





すると、人込みを掻き分けカイルの前に進み出る者がいた。ガラス職人のミハエルだ。


「フィリックス様」


ミハエルは、悲痛な面持ちでカイルに頭を垂れる。


「連れ去られたアメリさんは、この老いぼれのために毎日のようにガラス作りを手伝ってくださいました。アメリさんの作るガラス玉の評判を聞きつけ、町はずれの私の工房には、次第に人が集まるようになりました。ガラス玉の美しさだけでなく、アメリさんの心の美しさに触れ、この町は花が咲いたように明るくなったのです」


ミハエルの声に、町の人々が頷いている。宿屋の女主人に子供を抱えたその亭主、鍛冶屋に粉引き屋にパン屋。皆が揃って、助けを求めるような眼差しをカイルに送っていた。


カイルは目を瞠った。他人を惹きつける自分にはない彼女の魅力に、憧憬に似た愛おしさが込み上げる。


手綱を握る拳が、怒りで震えた。


早く彼女を連れ去った偽物を見つけ出し、八つ裂きにしてしまいたい。



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