獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する

(それでカイル様がどれだけ婚約者を跳ね返しても、陛下は新しい令嬢を次々送り込んでいたわけね……)


とても、哀しい話だと思った。その髪色ゆえに、母を失い、城の者に恐れられ、父に憎まれて育ったカイル。


古くから伝わる書物とやらに心を虜にされている王は、慈悲深さに溢れたカイルの本当の姿を見ようともしていないのだろう。





「まあ、陛下がカイル殿下に王位を譲りたがらないのは、単に疎んじているからという理由だけではないのですがね」


「どういうことですか……?」


ふいに紡ぎ出されたレイモンド司祭の台詞に、アメリは足を止める。


レイモンド司祭は、言葉を言いあぐねるように一度唇を引き結んでから、ゆっくりと口を開いた。


「陛下は、カイル殿下が若くして亡くなると思い込んでおられるのです」


アメリは、両目を力の限り見開いた。ドクンドクンと、心臓が不穏な音色を奏でる。


「なぜですか……?」


「そのことに関しては、あなたにはまだ深くはお話しできません」


シルバーの丸眼鏡の向こうの瞳が、冷ややかにアメリを一瞥した。


それからレイモンド司祭はいつもの穏やかな笑顔で一礼すると、立ち止まるアメリを残して回廊の奥へと見えなくなった。


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