獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
体を重ねていない時は、ベッドの上で二人は互いの体に触れながら色々な話をした。


クロスフィールドでの大勝利や、子供の頃のこと、とりとめもない話。カイルはアメリの色彩の知識に興味を持って、根掘り葉掘り聞いてきた。







「では、この色は何だ」


朝日に照らされたベッドに横になったまま、カイルが天蓋に装飾されていた貝殻を指さした。


「それは、珊瑚色です。珊瑚色の色言葉は、”恋心”」


「では、これは?」


「それは、空色です。空色は、”永遠”」


寝室に籠ってから、こんな調子でもう五百近くの色言葉をアメリはカイルに伝えていた。


カイルが、アメリの顔を見ながらフッと笑う。


「お前はすごいな。色だけで人と会話が出来そうだ」


指先が、まるで壊れ物を扱うように優しくアメリの白い二の腕を撫でた。






「色には、不思議な力があるのです。色彩療法を、ご存知ですか?」


「色彩療法? なんだ、それは」


「病人に、治癒の効果のある色で刺激を与えることによって、病を癒す治療法のことです。母は実際にこの方法で病に倒れた知り合いの家の窓ガラスを色鮮やかに装飾し、その人を病から救ったことがあります」


「驚いたな。まるで、魔女のようだ」


「魔女ですか?」


アメリは笑う。昔、姉たちに同じことをよく言われたからだ。


「そうだな、お前は魔女だ」


空色の瞳を細めて、カイルが悪戯っぽく微笑む。二の腕から這い上がってきた指が、アメリの黒髪を絡め取った。


「魔術でもかけられたかのように、俺の心を掴んで離さない。気がおかしくなりそうだ」


カイルの声が、甘く沈んでいく。どちらからともなく、また唇が重なった。








この時間が永遠に続くことを切に願うほど、二人は幸せだった。


けれども、そんな甘いひとときは、ある衝撃の事件によって断ち切られることとなる。




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