獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する

鼻先に漂う微かな香りに、アメリはうっすらと目を開けた。


みずみずしい新緑の香りに入り交ざるのは、珪砂と石灰石を煮詰めた時に漂う独特な香りだ。


ぼやけた視界は定まらず、刺すような光の眩しさに再び目を閉じそうになる。


けれどもアメリは必死に瞼を押し上げた。


そして、驚きのあまり息を呑む。





アメリが横になっていたその部屋の全面が、色とりどりのガラスで装飾されていたからだ。


壁も、天井も、あますところなく形様々なガラスが埋め込まれている。


六枚ある窓ガラスも見事なステンドグラスになっていて、ステンドグラスを透過した光が部屋中のガラスをキラキラと輝かせていた。


珊瑚色、若草色、空色、菫色。


薔薇色、若菜色、萌黄色、群青色。


溢れんばかりの愛の色言葉が、部屋中を満たしている。


この世のものとは思えない美しさ。まるで、光の世界を漂っているかのようだ。


体が、陽だまりのような温もりに満たされている。






アメリはすぐに、その温もりが数多の色言葉のおかげだけではないことに気づいた。


ベッドに横たわるアメリの体は、懐かしい感触にすっぽりと抱きしめられていたのだった。


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