能ある狼は牙を隠す


ぼんやり考え込んでいると、そんな質問を投げかけられた。


「ううん、特にないよ」

「そっか、良かった。今日の夜、花火上がるらしいからさ。一緒に見たいなと思って」

「そうなんだ!」


花火をちゃんと見るのは小学生以来だから、実は結構楽しみだったりする。
軽くお祭りを見て回って帰るのかなと思っていたばっかりに、嬉しいサプライズだ。


「ちょっと待ってて、すぐ戻るから」


狼谷くんはそう言い残すと、立ち上がって奥の方へ行ってしまった。

そうだ。帰りが遅くなりそうだし、今のうちにお母さんにメールしておこう。
花火みてくるね、と自慢混じりの内容を送信した。


『あれ、今日お祭り行く予定だったの?』


返信が早い。そういえば友達と遊びに行ってくるとしか言ってなかったな、と思い至った。
でも何で花火だけでお祭りって分かったんだろう。


『そうだよー』

『風鈴祭りって夕方からじゃなかった? 大丈夫?』

『いまお店で涼んでるから大丈夫!』

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