能ある狼は牙を隠す
恐る恐る懇願すると、今の今まで笑っていた狼谷くんが真顔になった。
私なんかまずいこと言ったかな……いやでもこれ以上はいたたまれないし……。
「……うん、食べる」
へら、と眉尻を下げた狼谷くんは、納得してくれたみたいだ。
それに安堵して、私は何か違う話をしようと思考を巡らせる。
「あ、狼谷くんって抹茶好きなの?」
「え? うーん……普通かな」
「そうなんだ……じゃあ、甘いものは?」
「嫌いじゃないけど、そこまで普段食べないよ」
返ってきた質問の答えに、思わず首を傾げた。
抹茶も甘いものも特別好きというわけじゃない。だったら、どうして今日ここに来たんだろう?
「抹茶って好き嫌い分かれるよね……」
「ああ、確かにそう聞くかもね」
胸の中で、何かが引っかかる。その正体は掴めない。
彼は入る前に「ここでいい?」と確認はしてくれたけれど、割と躊躇がなかったし、てっきり抹茶が好きなのかと思っていたのだ。
私は抹茶が好きだから、内心ラッキーだなって嬉しかったけれど。
「羊ちゃん、門限とかある?」