拾った彼女が叫ぶから
「僕は兄上の仰る通りに動くだけですよ」
「えっ、お前、パメラちゃんへの婿入りは兄上の強制なのか?」
「早合点が多いぞ、イアン」

 エドモンドが更に説明しようとするのを、軽く首を振って止める。
 このことを知るのは、父とエドモンドだけでいい。イアンには済まないが、少し|手助け(・・・)してもらおう。ルーファスはにっと笑みを浮かべた。

「ああ、イエーナにもトゥーリス行きの話が伝わっているようですね」
「うわっ、パメラちゃんってトゥーリスのお嬢さんなの? 知らなかったのって俺だけかよぉ! 水くさいじゃねーかよ」

 イアンの勘違いを敢えて正さずに続ける。

「いえ、トゥーリスの女性だということは彼女も知りませんよ。話を進めるために、彼女に会いに行ってきます」
「そうかー、相手が他国のお嬢さんじゃ仕方がないよな。俺、マリアちゃんを応援してたんだけどなー……」

 ルーファスは曖昧に笑った。だがわずかに歪んだかもしれない。
 別れ際に耳元まで赤く染めていた彼女を思い出す。早くケリをつけてしまいたい。ルーファスは首の後ろを揉んだ。

「……イエーナも気にしているようでしたから、彼女に会ったらイアン兄上から伝えておいてもらえます?」
「ん? ああ、いいけどよ。そんなに急ぎなのか?」
「ええ、準備が整いしだい出発します」

 エドモンドが何か言おうとするのを短く睨み付けて牽制する。イアンには、必ずイエーナに「伝えてもらわなければならない」のだ。
 許可が出たのは、ルーファスがヴェスティリアに戻るまでだ。自分の権限では人を動かせない以上、そこまでで全てを終わらせる必要がある。
 ──そこまでの間にあぶり出し、同時にパメラのことを片付ける。

『──ねえ、覚悟はできてる?』

 挑戦的なアメジストの瞳を思い返す。追い詰めたと思ったら牙を剥いて飛びかかってきたようなものだ。マリアらしいといえばそうなのだが、全くあんな反応を返されるとは思わなかった。まだまだ彼女には敵わない。
 無意識にふっと唇の端が持ち上がる。ルーファスは優美な仕草でソファから立ち上がった。

「……お前のやりたいようにやれ。ただし、後腐れのないようにしろ」
「もちろんですよ。手に入れるためですからね」

 自分を見上げたエドモンドと視線を交わし、そのまま「失礼します」と踵を返す。イアンの「本気かよっ!? 仕方ねーけどよ!?」という咆哮が追い掛けてきたが、振り返ることも訂正することもしない。

 イアンを利用するのは少々気が咎めるが、これも計画のためだ。代わりにイアンの「騎士団長の奥方との過去」については一生黙っておくことにしよう。
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