Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
 俺は、震える華月をなだめるように笑ってみせる。
「ごめん。怖がらせちゃったね」
 華月は黙って首を振るけれど、その身体の震えは収まらない。

「華月……」
「ち、違うん、です……」
 震える声で、華月が必死に言葉を紡ごうとする。

「えと……あの……あ、そうです! 助けて、いただいて……ありがとうございます!」
「え?」
「まだ、お礼を言ってませんでした。ケイさんには、二度も」
「お嬢様?!」

 その時、今の騒ぎで集まってきた人だかりの中から、男が叫んだ。は、とその方向に視線を向けた華月は、瞬時に俺の手を掴んで身をひるがえすと、反対側に走り出す。

「逃げます!」
「逃げるって……」

「あ、お待ちください!」
「なんだ、貴様! お嬢様に何を……!」

 慌てて華月のあとを追いながら聞く。
「知り合い?」
「は、はい……でも、まだ、私、帰り、たくは……」

 走ることに一生懸命な華月には、この状況を説明するのは無理そうだった。
 知り合いなのか。なら、さっきみたいに叩きのめすわけにはいかないな。

「こっち!」
 追ってくる二人の男を背に、俺は華月の手をとって角を曲がった
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