Invanity Ring --- 今宵、君にかりそめの指輪をーーー
 それがカッコいいと思ってた。誰より先にオトナを生きていると思ってた。
 ……今ならわかる。それこそ、甘ったれた子供の考え方だ。

 あああ、ちくしょう。ムカつく。

「……でしたら私の夢、一つは、叶ったのですね」
 短い沈黙の後、小さく言った華月に視線を戻す。華月は、俺を見つめたまま薄く笑っていた。
 ふうん。そんな笑い方もできるんだ。……できるように、なったのか。
 俺も、華月に笑みを返す。

「デート、楽しかったか?」
「はい」
 綺麗な顔で微笑む華月。俺は、一度空を見上げると立ち上がって、彼女にむかって手を差し出した。
 偶然とはいえ、ずいぶん、懐かしい場所にたどりついたな。
 あの場所、まだ入れるだろうか。

「おいで」
「どちらへ?」
 俺の手を握ると、華月も立ち上がった。
「もうすぐ、夜が明ける。その前に華月に見せたい風景があるんだ」
 ふ、と華月が寂しそうな表情を浮かべた。俺は、その顔を見て目をみはる。

 女ってやつはすごいな。さっきまで確かに高校生だったのに。
 俺の手を握る華月は、憂いをにじませた大人の女の顔をしていた。
< 35 / 70 >

この作品をシェア

pagetop